奈良市国民保護計画(素案)についての意見
2006年11月22日
奈良市平和委員会 会長 宮崎快尭
(1)国民保護法にもとづく保護計画は、日本国の主権にかかる従属的な軍事同盟を強化し、日本国憲法改悪を先取りして進められていることに留意する必要があります。
すなわち、1947年に日本国憲法が施行された後、1951年の日米安保条約締結以降、歴代の米国政府は日本の再軍備を強要し続け、日本政府はそれに屈してきました。この10年間の動きをみても、1996年の日米安保共同宣言(再定義)に始まり、1997年に日米軍事協力の指針(新ガイドライン)合意、1999年に周辺事態法等成立、2001年にテロ対策特別措置法を強行、2003年にイラク復興支援特別措置法及び武力攻撃事態法等を強行、2004年に国民保護法等強行、2005年に米軍再編と日米軍事一体化の「中間報告」発表、2006年に「最終合意」しその具体化が始まっています。この屈辱的な主権侵害を許してきた歴代の日本政府が、再び国民を戦争に動員する「国づくり」を模索し、その邪魔になる憲法9条の改悪をねらっています。
奈良市は、住民の生命、身体及び財産を保護する責務を果たすため、国民保護法及び「基本指針」を根拠に、「市町村国民保護モデル計画」を参考にし、「奈良県国民保護計画」及び「奈良市地域防災計画」との整合性を図りながら、奈良市国民保護計画を作成すると述べていますが、日米軍事同盟の実態を不問に付し、政府及び県いいなりの姿勢をあらわにしています。
いまこそ地方自治の本旨に立ち返り、政府に対し「国民保護法と同計画」の撤回を要求するよう、提言する必要があります。また、奈良市の特性として、世界遺産を抱え、国際観光文化都市として,慶州、キャンベラ、トレド、西安、ベルサイユと姉妹都市関係にあり、外国人観光客、外国人居住者の保護が重要になってきます。奈良市の国民保護計画には、これらの点が、十分反映されていません。
(2)国民保護法は、武力攻撃事態を「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が予想される事態」と規定し、「地上部隊が上陸する攻撃」「ゲリラ・特殊部隊による攻撃」「弾道ミサイルによる攻撃」「航空機による攻撃」の四つを想定しています。しかし、いまの国際情勢で日本を唐突に侵略する国が存在するのか、荒唐無稽の想定と言わざるを得ません。防衛庁の「防衛大綱」では「わが国に対する本格的な侵略の可能性は低下している」と分析しており、小泉前首相は「わが国に脅威を与える特定の国は想定していない」と答弁しています。
つまり、日本の国土に対し現実に武力攻撃をしかけてくる国は存在しないということであります。着陸上陸侵攻を行おうとするには、渡洋能力をもつ国は世界でもごくわずかです。核兵器、ミサイル攻撃も世界のごくわずかです。
こうした非現実的な想定をもとに「国民保護」を口実にして、日常的に自治体、指定公共機関、民間企業、国民を戦争態勢に組み込み、米軍や自衛隊への協力を強制し、国民の自由と権利を制限し、本来は対等なはずの国と自治体との関係を、上下関係に変質させ、「国民が主人公」から「国家が主人公」の国に変え、いまの憲法秩序を根底から破壊するものであります。
日本国憲法は、前文で「…政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し…日本国民は恒久の平和を祈念し…全世界の国民が…平和のうちに生存する権利を有することを確認する…」と宣誓し、第9条「戦争の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認」でそれを裏づけた世界で最も先進的な憲法であることに確信を持ち、この憲法を生かす施策こそ必要であります。
(3)国民保護計画は「平素からの備えや予防」について、「的確かつ迅速に実施する」ことを細部にわたって策定していますが、役所の体制や手続き上の問題が中心で、平素の備えは、災害対策基本法にもとづく「自然災害時の対応や連携体制、予防措置などを活用する」と説明しています。また、24時間即応体制についても、消防本部及び消防署の24時間体制を利用するだけであり、防災の備蓄(物資や資材)も共通するものが多いと述べています。これは、武力攻撃事態(緊急対処事態)などと仰々しく体制を改めて整備する必要がないことを告白しているもので、従来の防災体制を充実強化すればよいことであります。
むしろ問題なのは、自主防災組織や町内会、ボランティア団体への支援や教育、住民を巻き込んだ防災・避難訓練を行うことによって、住民が「わが国に対する脅威が差し迫っている」かのような不安をもち、まちがった愛国心となり、ひいては「憲法9条改正」や「戦争できる国」づくりの世論形成につながることを警戒しなければなりません。第2編平素からの備えや予防第1章組織/体制の整備等5ボランティア団体等に対する支援の項目は削除してください。
(4)市長は、第三節第3章 関係機関との相互連携のなかで、知事に対し「自衛隊の部隊等の派遣の要請を行なうよう求める」としていますが、自衛隊の主たる任務は「侵略軍を排除する」ことにあるのであって、国民保護などは「その任務に支障を生じない範囲で、可能な限り…」となっており、戦争状態にある自衛隊がこうした要請に応じることはないし、期待もできません。それは歴史的事実に照らしても明らかであります。太平洋戦争の末期、日本で唯一地上戦の戦場になった沖縄では、軍隊が住民を守るどころか、住民を盾に敗走をつづけ、多くの住民を死に追いやった事実。また、旧満州では、真っ先に軍隊が退去し、見捨てられた多くの邦人たちが悲惨な目にあった事実など。軍隊が国民を守るというのは幻想であります。
県の保護計画でも、「なお、武力攻撃事態等においては、自衛隊は、その主たる任務である我が国に対する侵略を排除するための活動に支障の生じない範囲で、可能な限り国民保護措置を実施。」となっています。つまり、「侵略を排除するための活動に支障が生じる」と自衛隊が判断すれば、「国民保護」などいつでも放り出せるということを「計画」自体が語っています。無差別・大量殺戮を特徴とする現代の戦争やテロ攻撃への備えは武力ではなく、憲法や国連憲章による平和外交であることを主張しなければなりません。
(5)市長は、第1編 総論 第2章 国民保護措置(緊急対処保護措置)に関する基本方針のなかで、基本的人権の尊重について「…国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は必要最小限のものに限る…」としています。しかし国民保護法では、罰則付きで強制することが11項目も定めており、また、改正自衛隊法でも土地家屋の強制収用ができるとなっています。憲法11条には「憲法が国民に保障する基本的人権は侵すことのできない永久の権利」と規定しており、「有事法制(戦争法)」によってこの権利が制限される余地は、憲法上存在しません。なお、罰則規定の11項目のなかには、憲法22条(居住移転の自由)と29条(財産権)に著しく抵触するものが含まれています。
(6)市は今年3月、国民保護法で義務づけられていることを理由に「国民保護協議会条例」と「対策本部条例」を制定したが、もっと慎重審議を積み上げ、疑問を解明し、市民の納得を得て制定すべきでありました。
なぜなら、全国の自治体のなかで国の方針通り制定できなかった自治体も出ており、最終的には自治体の主体的な判断が決め手になるからです。今日現在、先の大戦で住民が軍隊に守ってもらえなかった沖縄県では41自治体中22自治体が条例未制定です。高知県大月町では3月議会で反対多数で否決、土佐市議会では継続審議から現職議員の任期切れで廃案になっています。
(7)広島市では、主体的判断で「協議会」に「核兵器攻撃による被害想定専門部会」を設置することを決め、49人の協議会委員に被爆者団体の代表者も就任させました。これは、政府が基本指針で指摘している「核攻撃時の対処法」は実態とかけ離れている(風下を避け、手袋、帽子、雨合羽等によって放射性降下物による外部被爆を抑制する)、「机上の空論だ」という批判に応えた措置であります。
この机上の空論は、「NBC攻撃による災害への対処等」の全体に共通した問題でもあります。たとえば、(4)汚染原因に応じた対応の項で、生物兵器と化学兵器の「原因物質の特定」については検査に何日もかかり、さらに特定した物質に対応した救急体制を直ちにとることは極めて困難が予想されます。政府の基本指針で示している留意点はおよそ非科学的で、国民の安全を守る上では実効性がない、実際の役には立たないものといわざるを得ません。
また、2避難の実施要領の策定については政府のマニュアルを参考にしていますが、このマニュアルに基づき2003年鳥取県で行ったシュミレーションでは、石美郡の住民2万人を隣の兵庫県に避難させるのに90台のバスで11日間を要したとなっています。奈良市民37万人の避難など非現実的であるといわざるを得ません。こうした保護計画に、多くの人、金、エネルギーを注ぎ込むムダは止めるべきであります。
(8)「国民保護協議会」が住民の保護を目的とするのであれば、日頃から人権問題等に取り組んでいる市民などの意見を尊重すべきで、いわゆる災害弱者・弁護士・労働団体・市民団体・議員などを構成員に任命する必要があります。また、自衛隊に属する者が構成員になっていますが、自衛隊の役割は武力攻撃の排除であり、自治体は住民の生命・身体・財産の保護が役割であることから、違った役割を持つ機関を構成員とすることは改めるべきであります。特に、2004年の国会で批准されたジュネーブ諸条約の第T追加議定書48条(基本原則)で、戦時においては軍と民を厳密に区別し「文民は、敵対行動に参加しない限り、保護される」と規定している点を重視し、自衛隊と行動を共にすることは避けるべきであります。
(9)第1章市の責務、計画の位置づけ、構成等に関して質問します。世界の恒久平和の実現は、「非核平和都市宣言」を市議会で決議した奈良市民共通の願いであり、わが国の平和と国民の安全を確保するためには、国際協調に基づく国の外交努力などにより、武力攻撃等の発生を未然に防ぐことが何よりも重要であります。しかし、現在の日本政府は、北朝鮮のミサイル発射・核実験に対し、制裁決議を率先して推進しています。中川昭一自民党政調会長や麻生太郎外務大臣は、核武装は憲法上保有可能などの発言を繰り返して、内外から強い批判が起こっていますが、安倍首相はこれを容認しています。防衛庁の「省」昇格法案、海外派兵を自衛隊の主任務化を今国会で成立させようとしています。奈良市として、以上のような政府の動きに強く抗議することを求めます。
武力攻撃事態が発生すれば、いかなる措置をとろうとも住民の犠牲は免れません。地方自治の本旨に照らせば、武力攻撃事態及び緊急対処事態に対する最も重要な住民の保護策は、同事態を招かぬよう政府及び国際社会へ積極的に働きかけることであります。
奈良市議会は、1984年に「非核・平和奈良市宣言」採択しています。奈良市は、この宣言の精神を生かし、政府に対し「憲法9条を守り、平和外交に徹し、国防政策を見直し、有事法制(国民保護計画)の撤回を求めて下さい。
(10)第1編第4章市の地理的、社会的特徴(9)自衛隊施設等に、近郊には大久保駐屯地としか、書かれてありません。京都府相楽郡精華町には祝園弾薬庫があります。日本有数の大規模なものであり、有事になれば、ここから大量の弾薬が運び出されるでしょう。また、敵の重要な攻撃目標となり、隣接する京奈和自動車道は、弾薬輸送の最重要道路となるでしょう。このような施設が市境に極めて近い位置にある以上、「国民保護計画」にその存在と、有事における対処措置が明記されるべきです。
(11)第3編第10章文化財の保護について。奈良市には世界遺産に指定された文化財をはじめ貴重な文化財があります。文化財を守るためには、世界遺産保護を謳った国際法(ハーグ条約)を遵守し、その保護を世界に向ってアピールするほうが重要ではないですか。また、大仏殿など移動不可能な文化財の保護をどのように考えているのか、実効性のある保護計画が必要ではないでしょうか.
(12)第1編第5章市国民保護計画が対象とする事態。 「ゲリラや特殊部隊による攻撃」の留意点で、「南部山間地域では、戦闘の継続が長期化することへの検討も必要。」とされています。県計画同様、なぜこのような事態を想定しているのか、その根拠を説明してください。18ページに、核兵器等の留意点が記載されていますが、核兵器等の攻撃が起きないよう、他の自治体と協力し政府に対し、非核三原則の堅持、あらゆる核兵器の全面禁止と廃絶を求め恒久平和を願う全世界の人々とその実現に努めることが重要であります。
(13)かっての侵略戦争への根本的な反省と謝罪、被害者への補償を行い、日米安保条約を廃棄し、対米従属外交を、平和友好の外交に転換し、憲法九条を守り、すべての有事法制を撤廃し、世界のすべての国と平和友好条約を締結すること。発展途上国に対し、その国の国民の立場に立った有効な援助、世界各地で起こっている自然災害に対し、積極的な援助や人道支援を行うこと。イラク戦争支援に派遣している海上自衛隊を直ちに撤退させ、イラク人による自主的な国づくりを支援すること。世界で唯一の被爆国として、被爆の実相と被爆者の訴えを世界に広め、核兵器全面禁止国際協定の締結、核兵器の全廃の実現に向けて国際社会の先頭にたって奮闘すること。これらのことを誠実に進めるならば、日本に武力攻撃を仕掛けようなどという国は現れません。
住民の安全確保に責任を持つ地方自治体として、これらのことを、政府に提言すること、「国民保護」計画の策定作業を中止し、自治体の本来の責務である自然災害対策に全力を振り向けることをお願いして、奈良市平和委員会の意見とさせていただきます。
以上